[筆者よりひとこと]
本記事の対象読者は企業/会社経営だけに限りません。ぜひ個人の方にも読んでいただきたいです。個人の方は企業/会社→個人に置換して読んでいただければ幸いです。
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『忘れられた経営の原点-GHQが教えた「経営の質」CSS経営者講座』(後藤俊夫氏著、生産性出版)という本があります。
1999年に出版された本ですが、書かれている内容は、本書のタイトルのとおり1949年に戦後の日本の企業経営者向けにGHQ※が教育したCSS経営講座※のことです。
- GHQ:General Headquarters,the Supreme Commander for the Allied Powers(連合国軍最高司令官総司令部)
- CSS※経営講座: CSSは Civil Communications Section(GHQの民間通信局)の略。戦後の日本の通信機(ラジオなど)の著しい品質不良を改善するために、日本の企業経営者(通信機メーカー)向けに開発された経営講座(講座は延べ128時間にもおよぶ内容だったそうです)
講座の内容を感じてもらうために、テキストの第一章 方針>第一節 企業の目的>1.会社の存立理由は何か、2. 会社の目的の実例 を以下に紹介します。
第一節 企業の目的
1. 会社の存立理由は何か
「会社は何のために存在するのか」と問えば、たいていの人は「会社の目的は利益を得ることである」と答えるであろう。しかしこの答えでは不十分である。というのは、これだけでは、会社の目的すなわち経営者の追求する本来の目標が明らかにされていない。例えば利益という言葉には、
(1)製品をその販売価格よりも安い原価で生産すること
(2)製品をその製品原価より高い価格で売ることの二つの考え方がある。
前者が会社側に原価意識があることを示しているのに反し、後者は原価がいくらかかっても高く売りさえすればよいというのであるが、この答えでは、そのどちらかを採るのかがわからない。
更にこのような答えは、利己的でかつ一方的である。それには、会社として当然考えねばならない社会的な面が無視されている。企業は公共に対する責任、顧客に対する奉仕、並びに社会生活への影響を考えて運営されなければならない。そしてこれらのことこそ利益を得ることに劣らず、実に重要なことなのである。
(本書、P5~6、「第一章 方針」より引用)
2. 会社の目的の実例
アメリカのNewport News造船会社の創設者が、会社の設立に当って、「会社の目的」として次のような理想を発表した。
「当社は、良い船を造るものとする。できれば利益を得たいが、やむを得なければ損をしてもよい。しかしつねに良い船を造ることを念願とする。」
We shall build good ship here ; at a profit if we can … at a loss if we must … , but always good ships.これが、この会社の指導精神であり、基本方針である。これは、数言をもって企業存立の全理由を示し、かつその中には、品質を利益よりも重視し、逆境に陥っても事業を放棄せず。最良の生産方法を発見する決意などが示されていて、実に豊富な含蓄がありまことに優れたものである。
どんな企業でも、このような簡潔な声明を、基本方針としてもっていなければならない。その会社の存在理由は。それによってはじめて明らかになるのである。
(同上)
いかがですか。
経営の在り方について直球で書かれています。・・・こういう内容で「トップ・マネジメント基礎講座」「専門講座」が作られ、三菱電機・松下電器など当時の大手通信機メーカーの経営者・課長以上の専門部門担当責任者たちが学んだことがわかります。
私は本書に出合ったとき、このCSS経営者講座は今でも十分通用する内容であると思いました。むしろいまも変わらぬ経営の原点がここに書かれています。
後藤氏は「はじめに」で次のように書いておられます。
(私たちが)五〇年前学んだ事柄は何か、そして学んだはずなのに身につかなかった事柄はどこへ行ってしまったのか、まさにこれが本書のテーマである。
(本書PⅣ、引用、()は私が追記)
約70年の年月を経たいま、どこかへ行ってしまったこともあるのではないか。・・・私はそんなことを考え、今でもことあるごとに先達から諭(さと)されるつもりでこの本に立ちかえります。
私がなぜいま本書のことをこのブログで書くのかについて書きます。
連日報道されているように新型コロナの影響でいま各社はあえいでいます。いまは有事ですから、経営者は資金繰りに頭を悩まし、事業・市場の選択や事業継続の決断に直面していると思います。
この有事のときこそ、私はとくに中小企業の経営は原点に立ち返る必要があると思います。
立ち返るべきポイントは以下の2つです。
①有事が自社におよぼした影響の真の原因について本気で考えることです。
非常事態宣言やGo To・・が制限されたから自社の経営が傾いているのでしょうか。同じ条件下でも経営は苦しいが生きていける会社は他にあります。その会社と自社との差は何かをいまこそ本気で考えるべきです。それが何かをいまはっきりとつかんでおかなければ、今回の有事を乗りきったとしてもまた同じことをくり返しいつかは事業継続できなくなる可能性が残ります。
経営者は自分たちにこう問いかけます。非常事態宣言やGo To・・が制限されてお客さまがこなくなった。→お客さまがこなくなった理由は自責で考えると何が考えられるか。→考えを進めると自社はお客さまにとってなくてはならない存在ではなかった、だからこなくなったという結論にいたるはずです。→ではこれから何をどう改善し・修正する/変革する?・・・このように考えていかないと本質的な打ち手にはならないと私は思います。
②有事のときこそ経営・社員・金融機関・取引先が一つになれないかを考えることです。その一つになるための求心力は上掲した本書の自社の存立理由と自社の目的を見直すことではないかと私は思います。ここに立ちかえって経営が社員、金融機関、取引先と本気で話せるなら・改めるべきところは改めるなら事業再起・継続の可能性はでてくると思います。
経営者は、自社は公器としてふさわしい存在だったか(社員を単なる稼ぎの道具としてみていなかったか・金融機関を体のいい資金調達先とみていなかったか・取引先を・・・などふり返ります)。
有事のときだから考えます。有事のときだから考えることができます。
長くなりましたが、さいごにもう1つだけ書きます。
本書の帯に「不易流行(ふえきりゅうこう)」ということばが書かれています。
易とは変わること・変えることを意味し、よって不易とは時代が変わっても変わらない普遍を意味するそうです。流行とは新味を求めて移り変わる変化を意味します。よって不易流行とは、いつまでも変化しない本質的なものを忘れないなかにも、新しく変化を重ねているものを取り入れていくことだそうです。
今日のITの普及、今後のAIの進化など会社は新味を求めて変化していきます。一方でそんなテクノロジーに人が埋没していくことはありえません。変わらない/変えてはいけない人としての本質的なものがあって、その人がテクノロジーを使いこなしていく時代であるべきだと私は思います。
また先述のとおり、会社経営においても、有事といえる経営環境だからこそ、自社が何を不易とし、何を流行とするのかについてあらためて明確にする必要があると思います。そうすれば「Company」の語源である「一緒に・パン・仲間」になり、経営は経営者、従業員、経営に参画するその会社にかかわるすべての人のものであるという本来の姿にもどれると思います。
失われた10年、20年、・・・といいながらも日本は経済的に豊かな社会でした。そのなかで厳しくみれば、会社も個人も緩んでいた部分があったことを反省します。
いまそれがコロナという有事によって表出しているといえます。・・・厳しいですが、修正すべき点は修正して次の社会につなげていきたいと私は願います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。